今日は朝から雨が降っていた。銀時は暇つぶしに出かける事も出来なくて、家で朝からごろごろしていた。
「新八雨が降ってるから辛気臭いネ。なんかおもろい事するアル」
「辛気臭いって言われても僕のせいではないからね。それにこの部屋なんか酢コンブ臭いよ」
そんな神楽と新八のやり取りを横目で見ていると、チャイムが鳴った。

     つめたい素足

「はい。どなたですか」
新八が急いで玄関まで行く。こんな雨の日にうち来るなんてよっぽどの急ぎか暇人だななどと考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「旦那、お邪魔しますぜ」
「おおお沖田君!?」
あまりの突然の訪問に、銀時は立ち上がって叫んだ。と、同時に神楽の毒舌が聞こえる。
「なんだよ暇人警察が。ここはお前の来るような所じゃねぇぞ」
さっそく嫌悪の顔を向ける神楽を両手で抑える。せっかく来てくれたのに、帰ってしまったら丸1週間へこみそうだ。
「沖田君、どうしたの?何?困りごと?ゆっくりしていってよ」
帰ってしまわないように、さっきの神楽の行動を忘れてもらおうと焦りながら早口で言う。すると沖田は口を開いた。
「いえね、今日は朝から大雨じゃねぇですか。なのに土方のヤローが市中見回りに行けとか言いやがって・・・このざまでさァ」
見ると沖田の身体はびしょ濡れで、衣服からポタポタと雫が落ちている。
「こりゃひでぇな。新八タオル持ってきてやれ」
新八ははいと返事をしてタオルを取りに洗面所に向かう。沖田はスイヤセンと言って上着を脱いだ。
(ああ。なんて綺麗なんだろう。)
そう思わせる沖田の身体は、濡れたシャツがくっ付いてなんとも色っぽい。大串君とこに戻る前で良かったなと思う。こんな姿を見たらあのヤローは自分の立場を利用してどんな事をするやら。
銀時はホッとして沖田の身体を見つめた。
「銀ちゃんのヘ・ン・タ・イ」
両手で抑えていた神楽がいきなり声を出した。
「は?俺の何処が変態なんだよ」
「そーごの体、じっと見てたアル。変態アルヨ」
神楽の言葉に沖田が目を丸くする。
「へぇ。旦那、そんな趣味をお持ちで?」
沖田はニヤニヤと笑って聞いてくる。
冗談じゃない。可愛いんだからそんな趣味ない奴でも見ちまうよ!・・・と、思ったがその前に沖田君の前でそんな事を言った神楽を追い出さなくては。
「違うから。神楽ちゃん、向こうに行ってなさい」
銀時は軽くあしらってグチグチ言ってる神楽を部屋から追い出した。新八が入れ違いで入ってきたが、タオルを受け取ってすぐに部屋から追い出した。

「旦那、コレここに干しといていいですかィ?」
びしょ濡れの上着を持って聞いてきた。いいよと返事すると俺と向かい合わせの椅子の背もたれに上着をかけ、その椅子に座った。
目の前にいる沖田を見て、銀時はある事に気づき、言葉を発した。
「沖田君?どうしたの、震えてるよ?」
「へ?そうですかィ?」
いったいどのくらい雨に当たっていたのだろう。沖田の身体は小刻みに小さく震えていた。
「大丈夫?」
そう聞きながら沖田の腕に触れてみると、すごく冷えていた。手を見ると指先は青く変色している。
「おいおいどんだけ外に居たんだよ」
銀時は慌てて沖田の手を握った。
「旦那?」
沖田は不思議そうに銀時を見つめる。
「こうしてると、あったけーだろ」
笑顔で言った銀時の言葉に、沖田もつられて笑顔になって、そーですねと返した。銀時はしばらく手を握っていたが、ふと沖田の足元を見て眉間にしわを寄せた。
「どーしたんですかィ?」
沖田が銀時の変化に気づき問う。
「・・・足の指も変色してる」
へ?と見れば手よりもひどく青色になっている。
「冷たすぎていてーだろ」
そう言うと、銀時は沖田の手を離し、前に屈んだ。
「旦那・・・?」
「こっちも温めてやらねぇとな」
そう言って、足の指をぺロっと舐める。
「ん!」
沖田が思わず声に出す。
するととたんにドタン!と大きい音がした。
「銀ちゃんの変態ー!」
行き成りの大声にびっくりして頭をあげると神楽が怒りの表情でこっちを見ていた。まさか見られていたとは・・・。
「不潔アルネ最低アル!そーごに何やったアルかァァァ!」
神楽は怒って勢い良く襲い掛かって来た。が、ピタリと止まって何やら顔をしかめさせ、方向転換した。
「銀ちゃんをたぶらかしたなぁぁ!小降りになったからさっさと帰るヨロシ!」
怒りの矛先を沖田に変え、迫力をそのままに沖田に襲い掛かった。沖田は神楽をヒョイとかわし、立ち上がった。
「じゃあ旦那、お世話になりやした」
干していた上着を着て、何事もなかったかのように出口へと向かって行く。
「いえいえ。またおいで」
最後のあいさつを交わして沖田は部屋を出て行く。すると、追いかけるように神楽も部屋を出て行った。そして戸口の向こうから声がした。
「まだ雨は降ってるアルから私の傘に入れてやるネ」
その声を聞いて銀時は笑った。
なんだ。神楽も沖田君の事好きなんじゃん。

窓から見える沖田と神楽の姿を見て、カップルみてぇだなと思う。
でも俺だって好きなんだから、本当になったりしたら許さねぇけど。
部屋の中から窓ごしに沖田を見つめてニヤリと笑う。
雨が降った時は、いつでもおいで。
その冷たい足を舐めてあげるから。








    26.つめたい素足


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