「どうしたんでィ、」 それ、と沖田さんが触れた指の先。 うっすらと赤く線が残ってしまった俺の手の甲。 「猫ですよ」 「ねこ?」 「最近、屯所にきてた野良」 「あぁアイツ?懐いてたんじゃねぇの?」 「そう思ってたのはこちらだけだったみたいで」 1ヶ月ほど前から屯所に姿を見せるようになった黒猫。 痩せて目だけやたらとギラギラしてて人間の姿を見ると忽ち姿を消してしまう、警戒心の強い猫だった。 怪我をしているらしく左の前足を引き摺っていた。 最初は餌もない騒がしいばかりの屯所に何故と思ったが、ここが他の猫の縄張りから外れた場所だったからかもしれない。 見かねた俺が餌を置いても近づこうともしなかった。 やっと食べるようになって1週間。俺が近寄っても逃げなくなって2週間。 一昨日は頭を撫でるのに成功し、もう懐いたんだと思っていた。 「何やらかしたんでィ」 「人聞きの悪い言い方しないでくださいよ」 「だってお前が一番世話してたじゃん」 「ちょっと親睦を深めようと」 「セクハラ?」 「抱き上げようとしただけです!」 「そりゃ立派な強制猥褻罪だぜィ」 「猫ですってば!」 「で、ガイシャは?」 やっぱ人の話きいてないな。いつもだけど。 ガイシャってなんだよ、殺人犯か俺は。 てゆうか今日はいつにも増して絡んでくるなぁ。 口に出しても無駄な事をわざわざ言って沖田さんの怒りを買うような愚かな真似はしない。 が、ひとつ溜息をつくくらいは許して欲しいと思う。 「行方知れず、ですよ。ちなみに被害者はむしろ引っ掻かれた俺の方です」 「ハイ拉致監禁罪追加〜」 「そんなに俺を犯罪者にしたいんですか!」 「イヤちげーな。まだ容疑者でィ」 「あ〜はいはいアンタは正真正銘のドSですよ」 「なんでィ、人がせっかく慰めてやってんのに」 「どこが?!どのへんがですか!」 「このへんとか」 ふわりと沖田さんのあまい匂いがして唇にやわらかい感触。 掠っただけのそれがあっけなく離れていくのに思わず深入りしそうになって、慌てて両手を引っ込める。 沖田さんからなんて1年に1回あるかないか、だ。 それを、ここで使いますか? 「ふ、不意打ちですよそんなの・・・!」 「ちゃんと消毒したかィ。なんなら今から俺が舐めてやりまさァ」 「い、いえ!いいんです!消毒はしましたから!」 あーあ、勿体無いとかなんとか心の声がきこえたが敢えて無視した。 だってこれ以上やられたら俺の理性の方がもたないんだよ!! 本当に本当に本当になんて気まぐれな人なんだ。 3日後、あの黒猫が帰ってきた。 そういえば名前つけてなかったな。 何がいいだろうと考えながら奮発して買ってきていた猫缶を開けてみたり。 この子を可愛がってしまうのにはちょっとした理由があって。 だって、似ているから。あの人に。 「おかえりなさい」 鳶色の瞳が俺を見上げて、初めて彼の鳴き声をきいた。 もう、前みたいにボロボロじゃない。 毛並みもすっかりよくなったし前足も引き摺っていない。 なにより、目つきが変わった。 鋭さは消えてないけど優しくなった気がする。 なんて思うのは俺の自己満足だろうか? 気安く触らせてくれないのは相変わらず。 でも時折、甘えるような素振りを見せることもある。 「お前は俺の大好きな人によく似てるんだよ」 |
可愛がろうとすれば素っ気なくて
放っておくとやたらと甘えたがる
【気まぐれな僕の猫】
サリ